競馬の「流し」馬券とは、1頭(場合によっては2頭)の「軸馬」を決め、その軸馬と複数の「相手馬」との組み合わせで馬券を購入する方法です。例えば馬連で1番を軸に選び、相手馬に2番・4番・6番を選択すると、「1-2」「1-4」「1-6」といった計3点の組み合わせを買うことになります。軸馬が来ることを前提に、相手候補を広げて“流す”イメージです。
この「流し」買いは、二頭以上の馬を予想対象とする連勝式の馬券で利用できます。流しが使える代表的な券種と手法には以下のようなものがあります。
馬連流し:軸馬1頭が1着または2着以内に入ると信じ、その馬と他の複数馬との組み合わせ(順不同)で馬連を購入します。
ワイド流し:軸馬と相手馬が共に3着以内に入れば的中となるワイドを流し買いします。
馬単流し:軸馬を1着固定あるいは2着固定にして、その位置に軸馬が入る前提で他馬との組み合わせを馬単で購入します。
三連複流し:軸馬1頭(または2頭)が3着以内に入ることを条件に、残りの着順に複数の相手馬が来る組み合わせで三連複を購入します。
三連単流し:軸馬を1着固定(もしくは2着固定・3着固定)して三連単を購入する方法です。
三連単フォーメーション:これは流しの発展形ともいえる買い方で、着順ごとに複数の馬を指定して組み合わせる方法です。
以上のように、流し馬券は「軸馬と心中する」スタイルとも言えます。軸馬さえ馬券圏内に来れば相手の着順は問わず広くカバーできる反面、軸馬が飛べば全滅というハイリスク・ハイリターンな面も持ち合わせています。
流し買いと他の買い方(ボックス・1点買いなど)との比較
流し馬券が競馬ファンに広く使われるのは、的中率と点数(買い目数)のバランスをとる戦略として優れているからです。
ボックス買いとの比較では、明確な軸馬がいるレースでボックスを使うと余計な組み合わせまで買ってしまうデメリットがあります。例えば有力馬4頭がいるレースで馬連を買う場合、4頭ボックスでは6点必要ですが、1頭を軸に決め他の3頭に流せば3点ですみます。流し買いは少点数で効率よく的中を狙えるため、軸馬を決められるレースではボックスより有利と言えます。
1点買いとの比較では、1点買いは少しでも予想が外れると不的中になってしまう極端な方法です。流し買いはこの中間に位置し、軸馬という一本筋を通しつつ相手を広げることで1点買いより的中率を高め、ボックスより点数を抑えるバランス戦略となっています。
要するに、流し買いは「勝負の軸」が定まっている場合に、その強みを活かして余分な点数を買わずに済む方法です。
流し馬券の具体的な買い方について

流し馬券を活用する際も、券種ごとに的中率重視か回収率重視かを意識して戦略を立てることが重要です。
ワイド・馬連など(的中率重視の流し)
ワイドや馬連は比較的当たりやすく初心者にも人気の券種です。軸馬を決めてワイド流し・馬連流しをする場合、堅実に馬券圏内に来そうな軸馬を据え、相手もある程度実力上位馬に絞ることで高い的中率が見込めます。配当面では派手さはありませんが、小額でも当てる経験を積みたい的中率重視型には有効な戦略です。
三連複流し(バランス型の流し)
三連複は3着以内に入る3頭を当てる券種で、難易度は高めですが順番不問の分三連単よりは当たりやすいです。三連複1頭軸流しは的中率と配当のバランスを取りやすい買い方とされています。人気どころを中心にしつつ一頭穴馬を含めるなど工夫すれば、点数を大きく増やさずに高配当も狙えます。
三連単流し(回収率重視の流し)
三連単は順番通りに1着〜3着を当てる最難関の券種ですが、ハマれば破壊力抜群の高配当が期待できます。三連単流しでは、まず軸馬を1着固定にするか、2着固定・3着固定にするか戦略を決めます。相手には伏兵馬や人気薄も大胆に組み入れることで、一撃必殺の万馬券を狙うスタイルです。
馬単流し(応用的な流し)
馬単は1着2着を順番通り当てる券種です。馬単流しでは軸馬を1着固定にするケースが多いですが、「どうもこの馬は勝ち切れないが2着には来そう」という場合は2着固定流しという作戦も取られます。軸馬の勝ちパターンが明確なときは馬単1着流し、相手なりに走って善戦するタイプなら馬単2着流し、といった使い分けも有効でしょう。
流し馬券の軸馬選定の方法について

流し馬券で最も重要になるのが「軸馬を何にするか」です。現代の競馬予想では、様々なファクターを組み合わせて軸馬の信頼度を見極めるのが主流です。
血統
血統はその馬の潜在能力や適性を判断する重要な手掛かりです。父系・母系の特徴から距離適性、馬場の巧拙、成長力などがある程度予測できます。
過去成績とラップ分析
過去のレース成績から安定感や格を把握することは基本中の基本です。同時に近年はラップタイム分析にも注目が集まっています。レースの各区間ごとの通過タイム推移から馬の脚質傾向や展開適性を読み解く手法です。
レース展開の予測
展開(ペースや隊列)を読む力も軸馬選定で重要です。各馬の脚質を把握し、枠順やコース形態から先行有利か差し有利かを予測します。自分の軸馬が展開不利を受けにくいかを検討します。
調教・当日の気配
レースまでの調整過程や当日のコンディションも見逃せません。最終追い切りの内容はその馬の調子を知る手がかりになりますし、レース当日のパドックでは馬体重の増減、発汗の様子、落ち着き具合などをチェックして状態の良し悪しを判断します。
騎手・枠順・斤量などその他の要素
馬の能力以外にも、人(騎手)や枠順・斤量といったファクターも総合的に検討します。信頼できるトップジョッキーが手綱を取る場合は大胆に軸に指名する、といった判断です。このようにあらゆる角度から「軸にしても崩れにくい馬か」をチェックすることで、流し馬券の的中率は大きく向上します。
流し馬券のメリットとデメリットについて

軸馬を決めて買い目を広げる流し馬券には、多くのメリットがある一方で、使い方を誤ると思わぬ落とし穴もあります。
メリット①:買い目点数を抑えつつ広範囲をカバーできる
流し最大の利点は、「点数を抑えながらも広い範囲を網羅できる」ことです。軸馬1頭に絞ることでボックス買いに比べて圧倒的に買い目を削減でき、その分無駄な組み合わせを省けます。
メリット②:予想の柔軟性・高配当狙いの自由度
流し買いは相手馬の組み合わせに柔軟性があります。軸さえ決まれば、あとの相手には人気馬から大穴馬まで自分の狙いに応じて組み込めます。流し馬券は軸馬が絡みさえすれば想定外の高配当も「拾える」買い方であり、懐の深さが大きな魅力です。
デメリット①:軸馬依存のリスク
流し馬券最大のリスクは、全てが軸馬頼みになる点です。軸馬が馬券圏内に来なければ他の組み合わせがどう当たろうと不的中になってしまいます。ボックス買いなら「軸不在」でも有力馬同士の決着を網羅できますが、流しでは軸1頭が飛んだだけで購入した馬券が全滅します。
デメリット②:買い目の広がりすぎと資金効率低下
流しは点数を抑えられるとはいえ、相手馬を無制限に広げれば結局点数は増えます。特に三連単マルチなどは相手を増やすと一気に膨れ上がります。欲張って相手を広げすぎる「濫買い」は中級者が陥りやすい失敗パターンです。
デメリット③:低配当の取りこぼし・トリガミ
流し馬券は高配当を拾える反面、低配当も拾ってしまう危険があります。典型例は「軸=1番人気、相手=2番人気」という組み合わせです。的中しやすい反面、配当が極端に低く、当たってもマイナスになるトリガミのケースです。
流し馬券が有効なケースと無意味になるケース
流し買いは万能ではなく、レースの状況によって向き不向きがあります。
流し買いが有効に働くケース
「軸馬を決めやすく相手が絞りづらいレース」では、流し買いで軸馬から手広く流すことで効率よくカバーできます。また、「出走頭数の多いレース」では、人気薄が紛れ込む余地が大きく高配当のチャンスが広がるため、軸を決めて点数を抑える流し買いが効率的です。
流し買いが効果を発揮しにくい(無意味になりやすい)ケース
「軸馬を絞れない混戦レース」では、無理に1頭を軸に固定する意義が薄いです。こういう場合は、はじめからボックス買いや券種の難易度を下げた方が得策です。また、「少頭数のレース」では組み合わせパターン自体が少なく、流しで多点買いするメリットがあまりありません。
中級者が陥りがちな流し馬券の間違った使い方と改善案
中級者になると流し買いにも慣れてきますが、だからこそハマりやすい落とし穴も存在します。
「なんでも流し」のワナ:レースの難易度を見極め、流し適性のないレースは潔く見送るか他の買い方を選ぶことが改善策です。
軸馬選びの思い込み:多角的なチェックリストを用意して軸馬を評価する習慣をつけ、「総合点」で本当に信頼できるか見極めることが重要です。
ヒモ選びの極端さ:ヒモ選定の基準を設け、点数と期待値のバランスをとることが改善策です。欲張りすぎても、絞りすぎても収支に悪影響を及ぼします。
オッズ軽視によるトリガミ:必ず購入前に最低配当と点数を計算し、期待値がプラスになるか確認する癖をつけましょう。
馬券種の選択ミス:状況に応じて券種や買い方を柔軟に切り替えることが大切です。「当てやすさと払い戻し期待のバランス」を常に意識し、より効率の良い券種がないか考えます。
まとめ:流し馬券を賢く使いこなすために
以上、競馬における流し馬券の基礎から応用まで幅広く解説しました。流し買いは軸馬の見極めとヒモの取捨という予想力が問われる買い方ですが、ハマれば少点数で的中を手繰り寄せ、回収率を高めることができます。情報を多面的に分析して軸馬を選び、レースごとに最適な形で流し馬券を活用すれば、初心者を脱し中級者・上級者へのステップアップとなるでしょう。
最後に一言付け加えるなら、「流し馬券は手段であって目的ではない」ということです。常に冷静にレースを分析し、「このレースで勝つために最良の手は何か?」を考えた結果として流し買いを選択する、そんな論理的なアプローチで馬券戦術を組み立てていけば、自ずと的中率・回収率は向上していくはずです。
